はじめに
『オブセッション(Obsession)』は、ヴィクトリア朝時代の英国貴族社会をテーマとした中重量級の戦略ボードゲームです。プレイヤーは英国の貴族の一員として荒廃した屋敷を再建し、使用人を雇い、社交界での名声を高め、最終的にフェアチャイルド家の子息・令嬢との結婚を目指します。
本作は、テーマ性と戦略性の融合が絶妙であり、優雅な雰囲気の中にもプレイヤー間の競争や、運と戦術のバランスがしっかりと組み込まれています。多くの戦略が交錯するこのゲームにおいて、勝利するためには、リソースの管理能力、柔軟な戦術対応、そして状況に応じた意思決定が求められます。
本ガイドでは、BoardGameGeekやRedditといった英語圏のコミュニティで共有されている実践的な戦略知見をもとに、勝利への道を体系的に解説していきます。
1. 基本戦略の理解
ゲームの核心要素
オブセッションは、テーマ性が強い一方で、驚くほど高い戦術性を備えています。ゲームには「運」が介在する要素(建物タイルの出現順、貴族カードのランダム性など)も多くありますが、これをどのように受け入れて戦術に落とし込むかが、上級プレイヤーと中級プレイヤーの差を生むポイントです。
運任せに見える場面でも、しっかりと事前準備や代替案を持つことで、その運の波を味方にすることができます。「運に翻弄される」のではなく、「運を活かす」戦略的な思考が重要です。
得点源の優先順位
勝利者のスコア分析から、多くのゲームで以下の要素が主な得点源となっていることが分かります。
- 改良タイル(Improvement Tiles):ゲーム中盤以降、得点・機能の両面で大きな役割を果たす
- 貴族カード(Gentry Cards):威信ゲストの活用が特に強力
- 評判(Reputation):単なる条件解除だけでなく、最終得点源としても重要
- その他(記念碑、建物未使用ボーナス、求愛勝利など)
この順位を意識することで、限られた行動回数とリソースをより効率よく配分できます。
2. 家族(Family)の選択と活用
各家族の特徴と戦略
ゲーム開始時に選択する「家族」は、初期能力や状況に大きな影響を及ぼします。以下に、各家族の長所と、それを活かした戦略の方向性を詳述します。
アスキス家(Asquith)
- 特徴: ゲーム開始時に5枚の家族メンバーカードを持つ(他家族は4枚)
- 戦略の方向性:
- パスを用いたターン調整が非常に有利
- 手札に余裕があることで、序盤の使用人や資金に余裕が生まれる
- ダウエイジャー・カウンテス(年配女性カード)は、必需品タイル要件の緩和に役立つ
- 応用ポイント: 早期に「書斎」や「使用人宿舎」などのタイルと連携させることで、カード効率がさらに向上する
キャベンディッシュ家(Cavendish)
- 特徴: 評判レベル1.4スタート(通常より高め)
- 戦略の方向性:
- 初期から高レベルのタイルや貴族カードを使用可能
- 序盤の競争で先手を取れるため、「フロント・パーラー」のような序盤ブースト施設と相性が良い
- 応用ポイント: シーズン1中に評判レベル2に到達し、フェアチャイルドとの早期求愛を仕掛けるのが理想
ハワード家(Howard)
- 特徴: 拡張「Upstairs, Downstairs」導入時、専属コックを所持
- 戦略の方向性:
- コックによって早期から上級ゲストをもてなす準備が整っている
- 評判制限を超えたゲストの活用が鍵
- 応用ポイント: 高報酬タイルを序盤から回せるため、長期的なエンジン構築に繋げやすい
ポンソンビー家(Ponsonby)
- 特徴: ゲーム開始時に£300を所持(他家族は基本的に£0)
- 戦略の方向性:
- 初手から市場で重要タイルを確保できる
- 金銭に余裕がある分、序盤の行動制限が緩く、柔軟な展開が可能
- 応用ポイント: 初手で「パーティールーム」や「庭園」などを確保できれば、シーズン1から強力な回転が可能
ウェセックス家(Wessex)
- 特徴: 初期に6枚目の改良タイルを持つ(通常は5枚)
- 戦略の方向性:
- 特に「朝食室」「テニスコート」は強力で、序盤から他プレイヤーに対して市場圧力を与える
- 高効率なタイルを起点に中盤の展開力を得やすい
- 応用ポイント: タイルのフリップも視野に入れ、未使用ボーナスや求愛カテゴリでの優位を確保する
ヨーク家(York)
- 特徴: フットマン1人追加でスタート
- 戦略の方向性:
- 初期から連続アクションや高コスト施設の運用が可能
- 使用人採用を後回しにできる点で戦術的柔軟性が高い
- 応用ポイント: 中盤に「バトラーズ・パントリー」などの効率化タイルを得れば、後半の回転率が大幅に向上する
3. 評判管理の戦略
評判の成長目標
オブセッションでは評判レベルがプレイヤーの行動範囲を大きく左右します。高レベルの改良タイルや貴族カードを使用するためには、それに応じた評判が必要であり、評判レベルがボトルネックになることもしばしばです。
下記は戦略的に推奨される評判成長の目安です:
- シーズン1終了時: 評判レベル1.4〜2
- シーズン2終了時: レベル3〜4に到達
- シーズン3終了時: レベル5〜6以上を目指す
- シーズン4終了時: 拡張込みで最大のレベル9を目指す
この成長曲線に乗れるように、毎シーズンで「確実に評判を上げる行動」を1回は含める意識を持つと安定します。
評判の重要性
評判レベルに応じて、ゲーム終了時に得られるVPは大きく異なります。例として:
- 評判レベル6:21VP
- 評判レベル9(拡張使用時):45VP
この24点の差は、1回の求愛勝利や記念碑の得点に匹敵するほどのインパクトがあり、最終順位を大きく左右します。そのため、「早く高く上げる」ことが重要であり、単なる条件解除にとどまらず「主要得点源」として捉える必要があります。
評判を「通貨」として活用
オブセッションでは、評判を使って「特別なアクション」を行うことができます。これは単なるポイントではなく、戦略的な「通貨」として活用可能です:
- -2評判:£100獲得(資金が枯渇した緊急時の命綱)
- -3評判:使用人1人を即時リフレッシュ(大ターン連発時に活用)
- -4評判:建設者市場全体の更新(不作の市場打破)
これらは一時的なディスアドバンテージを伴いますが、後半で失った評判を取り戻せる設計になっているため、状況によっては非常に強力な選択肢になります。
4. 使用人管理の戦略
採用の基本原則
採用タイミング
使用人の採用は、パスの直後や大型ターン後の「使用人枯渇タイミング」が最適です。採用を後回しにしすぎると、「せっかくの改良タイルが使えない」という事態にもなりかねません。
採用ターン自体が行動を消費するため、不要なタイミングで採用を行わないことも重要です。常に「採用に見合う働きをしてくれるか?」という視点を持ちましょう。
採用する使用人の優先度
- フットマン(Footman):15種類以上のタイルで必要な万能型。最優先。
- レディースメイド(Lady’s Maid):多くの威信ゲストで要求される。2枚以上あると安定。
- ハウスキーパー、アンダーバトラー:中盤以降の施設使用や威信ゲストの対応で活躍。
状況に応じて、バトラーやアンダーバトラーなどの特殊な役職にも目を向ける必要があります。
特別な使用人タイルの活用
いくつかの改良タイルは、使用人管理を飛躍的に楽にしてくれます:
- ブラッシング・ルーム:フットマンがバレットの代わりになる。汎用性が爆上がり。
- バトラーズ・パントリー:アンダーバトラーが男性使用人全員の役割をこなす。超便利。
- 使用人宿舎(Servants’ Quarters):パス時に全員を復活させられるため、テンポの維持に最適。
これらの施設を中盤までに獲得できれば、行動密度が格段に上がります。
5. 求愛(Courtship)戦略
オープン vs クローズド求愛
オープン求愛
フェアチャイルド家が興味を持つカテゴリー(庭園、サービス、スポーツなど)が事前に明かされているモードです。
- 長所:狙うべきタイルが明確になり、計画を立てやすい
- 短所:他プレイヤーに狙いがバレて競争が激化しやすい
序盤から1カテゴリに絞って全力投資するのが有効です。
クローズド求愛
求愛フェーズになるまで関心カテゴリが公開されないモードです。
- 長所:不確定要素が多く、バランス型戦略が機能しやすい
- 短所:求愛に負けるリスクが高くなる
各カテゴリで「1位を取れるかも」というポジションを目指すのが基本です。
シーズン1の求愛の重要性
最初の求愛フェーズで勝利することは、単なるVP獲得を超える大きな意味を持ちます:
- 評判制限なしのゲスト(エリザベス)の獲得
- 威信ゲストエンジンの早期始動
- 後の求愛フェーズでのアドバンテージ(二重使用可能)
いわゆる「フェアチャイルド・ダブルディップ」と呼ばれる戦術は、最終得点の天井を大きく引き上げます。これを実現するには、シーズン1から明確なリードを取る必要があります。
6. 特別ラウンドの活用
ゲーム中には、特定のターンで特別なルールが適用される「特別ラウンド」が存在します。これらを最大限に活用することで、一気に他プレイヤーとの差を広げることが可能です。
国民の祝日(National Holiday)
- 発生タイミング:シーズン3、ターン1
- 効果:評判レベルに関係なく、すべてのタイルと貴族カードを使用可能
このラウンドは、普段なら使えない強力なカードや高レベルタイルを一気に活用できる絶好のチャンスです。特に、前ターンまでに評判が足りず使えなかった威信ゲストをこのタイミングで起用することで、大きな効果を発揮します。
建設者の祝日(Builder’s Holiday)
- 発生タイミング:シーズン3、ターン3
- 効果:資金がある限り、建設市場から複数のタイル購入が可能
タイルを一度に複数購入できる貴重なチャンスです。事前に£300以上を準備しておけば、「未使用タイルボーナス」やカテゴリ支配を狙っての買い漁りが可能になります。ここで市場を一気に掃除する動きは、終盤の勝利にも直結します。
村の祭り(Village Fair)
- 発生タイミング:シーズン1ターン4、シーズン2ターン4、シーズン4ターン1(条件あり)
- 効果:書斎をフリップ済みなら、£300+評判+2
このボーナスは軽視されがちですが、書斎が使用可能な状態であれば、資金と評判という2大リソースを同時に獲得できます。特にシーズン1と2でこれを活用できると、中盤の行動に大きな余裕が生まれます。
7. 金銭管理とアメリカの相続人
金銭の重要性
本作では、使用人や貴族カードよりも「お金」が行動範囲の広さを決定づける最重要リソースと言っても過言ではありません。市場のタイル購入、求愛支援、書斎のフリップなど、あらゆるアクションに金銭が絡んでくるため、資金計画は極めて重要です。
アメリカの相続人カードの活用
アメリカの相続人は、VPや評判を犠牲にする代わりに大量の現金(£700〜£800)をもたらす特別なゲストです。
- 利点:
- シーズン1で£700獲得 → 強力タイルや特別施設の即時購入が可能
- 一時的に使用して、後に除名すれば影響を軽減できる
- 欠点:
- 使用時に評判-2〜-3と-3VPのペナルティ
- クリーンな評判戦略とは相性が悪い
最適な戦略は「序盤で使い切り、終盤で除名してスコアから除外する」ことです。リスクをコントロールしつつ、資金の爆発力を最大限に活かしましょう。
8. 上昇経路(Upward Path)の構築
タイル購入戦略の基本
ゲーム中盤以降、評判の成長に合わせて高レベルのタイルを購入していくことが勝利への重要な布石になります。その際のポイントは、「未来の自分のために買う」ことです。
- 現在の評判より1〜2段階上のタイルを購入
- 評判が上がった直後から即使用可能にする準備
- 未使用タイルとしての得点化も狙える
評判レベル4で評判6用のタイルを購入することで、評判5→6に上がった瞬間から強力なターンを即実行できる状態を作るのが理想です。
9. 貴族カード管理
カジュアル vs 威信ゲストの使い分け
カジュアルゲスト(通常の貴族)
- 「捨てカード」と見なされがちだが、実は手札管理と循環の要
- 評判不要で使えるため、序盤のエンジン始動に必須
- 書斎でのカード循環と併用すると、むしろ手札の潤滑油になる
威信ゲスト(Prestige Guests)
- 高得点+強力なボーナスを持つカード群
- 使用には使用人と評判が必要だが、その分リターンが大きい
- エンジン構築の核となり、できれば1人につき2回使いたい
手札全体を「回す」という意識を持ち、不要なカードは早めに書斎や捨札に送り、常に威信ゲストの使用機会を最大化することがポイントです。
10. 記念碑(Monuments)の戦略
記念碑は高額ではありますが、その価値は計り知れません。以下の優先順位で考えるとよいでしょう:
- ワインセラー(Service):特定カテゴリの支配を盤石に
- 輸入大理石床(Essentials):求愛の可能性を一気に押し上げる
- 彫像、噴水、温室など:シナジーがある場合のみ購入
毎ターン+1評判を提供する点も見逃せません。得点源というより、ゲームの主導権を握る装置として使うのが理想です。
11. 高度な戦術
パスを恐れない
パスは手番を無駄にしているように思われがちですが、以下のような利点があります:
- 手札の循環 → 強力なゲストの再使用が可能に
- 使用人の回復 → 次のターンの行動力を倍増
- 特別ラウンド前の整備 → 最大活用の準備として重要
無意味にターンを埋めるより、1手パスして盤面を整える方が、結果的に得点が伸びる場面は多々あります。
市場の読みと管理
市場からの購入は「毎ターン行うべきこと」ではありません。重要なのは:
- 今、買うべきか?
- 次に来るタイルの予測
- 他プレイヤーが狙っているか?
これらを意識して、安価で強力なタイルが来たときだけ購入し、それ以外はスルーする「受け身の選択」ができるようになりましょう。
12. 運の要素への対処
オブセッションにおいて、運は常に付きまとう要素です。重要なのは、それをいかに「味方」にするかです。
- 柔軟性の確保:常に「代替案」を用意しておく
- 多角的戦略:特定のカテゴリ1本に依存しない
- リカバリープラン:序盤に出遅れた場合の挽回方法を準備しておく(例:アメリカ相続人、記念碑狙い)
運に打ち勝つのではなく、「運の変化に即座に乗る柔軟性」こそが上級者の資質です。
13. ゲーム展開フェーズ別戦略
シーズン1(ターン1-5)
- 家族特典の活用と初動の整備
- 評判レベルを2まで押し上げるのが目標
- 求愛フェーズ勝利を視野に、カテゴリ得点を確保
- 使用人の基本セットを整える(最低でもフットマン+レディースメイド)
シーズン2(ターン6-9)
- 威信ゲストを中心としたエンジン構築
- パスと書斎を活用して手札の質を整える
- 評判3〜4を目指し、上位タイルを視野に入れる
- フェアチャイルドの再使用に向けてポジション確保
シーズン3(ターン10-13)
- 国民の祝日で最大リターンを狙う
- 建設者の祝日で必要なタイルを大量確保
- 評判5〜6に到達し、記念碑や高得点ゲストを活用
- 資金が枯渇しないようアメリカ相続人再導入も検討
シーズン4(ターン14-17/20)
- 評判を最大化し、得点差を確保
- 威信ゲストを毎ターンフル回転
- 最終求愛に備え、カテゴリ支配を意識
- タイル未使用ボーナス、記念碑、残りVPをすべて獲得に動く
14. 勝利への最終チェックリスト
必須要素
- [✔] 評判レベル9(または最大)に到達
- [✔] 威信ゲストエンジンを稼働
- [✔] 少なくとも1回は求愛勝利(特にシーズン1)
- [✔] 使用人管理の最適化
- [✔] カテゴリごとの支配力確保
推奨要素
- 記念碑の獲得
- 特殊タイルの確保(宿舎、パントリーなど)
- 効率的な金銭回収
- 市場と手番順の管理
まとめ
『オブセッション』は、運・戦略・テーマが三位一体となった傑作ボードゲームです。本作で勝利を目指すためには、毎ターンの状況判断、長期的な計画性、そして他プレイヤーとの駆け引きに常に注意を払う必要があります。
成功の鍵は、「計画通りに動く力」と「想定外に適応する柔軟性」のバランスです。重厚なテーマの裏に潜む緻密な戦術戦を、ぜひ楽しんでください。
本記事は、英語圏のプレイヤーによる実践的な分析とガイドをもとに、日本語で再構成した戦略解説です。実際のプレイ状況や拡張によって最適解は異なるため、ご自身のプレイスタイルに合わせてご活用ください。
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